疾患概念

脳腱黄色腫症(MIM#213700)は,CYP27A1遺伝子変異を原因とする常染色体劣性の遺伝性疾患である1-4)CYP27A1遺伝子は,ミトコンドリアに局在するチトクローム P 450酵素の一つである27-水酸化酵素(CYP27A1, EC 1.14.15.15)をコードしており,脳腱黄色腫症の患者では遺伝子変異により本酵素活性が著しく低下している.27-水酸化酵素は,肝臓における一次胆汁酸の合成に必須の酵素であり,酵素欠損により胆汁酸の合成障害をきたす(図1).一次胆汁酸のうち,コール酸は胆汁アルコールを介して合成されるが,本症患者ではケノデオキシコール酸の合成が著減し,血清中コレスタノールが上昇する(図1).また,ケノデオキシコール酸は胆汁酸合成経路の律速酵素であるコレステロール7α-水酸化酵素の発現を抑制しているが,本症患者ではこのネガティブフィードバックが減少し,血清中コレスタノールが更に上昇する結果となる(図1)5). 上昇したコレスタノールが脳,脊髄,腱,水晶体,血管などの全身臓器に沈着し,様々な臓器障害を惹起する.下痢や胆汁うっ滞は,ケノデオキシコール酸の欠乏や胆汁アルコールの上昇などコレスタノールの蓄積以外の機序によると推測される.

図1 脳腱黄色腫症患者における胆汁酸合成障害