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臨床症状・病型

脳腱黄色腫症は,多彩な臨床症状を呈する古典型(classical form),痙性対麻痺を主徴とする脊髄型(spinal form),神経症状を認めない非神経型(non-neurological form)に大別することができる6).更に,新生児期~乳児期の遷延性黄疸・胆汁うっ滞を主徴とする病型が近年注目されている.以下に各病型の臨床症状を記載する.

<古典型>

古典型は,古くから知られている典型的な脳腱黄色腫症の病型である8).古典型は新生児期~小児期に発症することが多く,初発症状としては,遷延性黄疸/胆汁うっ滞,下痢,白内障,精神発達遅滞/退行,てんかん,歩行障害が多い8,9).本症で最も早期に出現しうる症状は,遷延性黄疸/胆汁うっ滞であり,一定数の患者に新生児期の遷延性黄疸の既往があることが明らかになっている(後述)10,11).下痢は,10歳未満で発症することが多く8,11),約半数の患者が小児期に下痢を反復し小児科医を受診しているとの報告がある11).白内障は,60%~96%の患者で認められ6,8,9,11-13),10歳代に気づかれることが多い8,11).以上から,慢性の下痢や白内障を有する小児に遭遇した場合,脳腱黄色腫症を疑うべきであるとの指摘がある14).腱黄色腫は20歳代に生じることが多く8,11),アキレス腱に好発するが,膝(膝蓋腱)・肘(上腕三頭筋の腱)・手指伸筋の腱など他の部位に見られることもある.また,本症患者でも経過を通して腱黄色腫が認められない症例も稀ではない8,9,11,13)ことに注意が必要である.若年性の骨粗鬆症も本症に特徴的であり,その頻度は10%~67%で6,11,12),30歳代の発症が多い11).動脈硬化による冠動脈疾患の合併も報告されている15,16)
本症における神経症状は,知的障害,小脳失調,ジストニアやパーキンソニズムなどの錐体外路症状,錐体路障害による痙性歩行,てんかん,末梢神経障害など多彩である.知的障害は,病初期に出現する精神発達遅滞と進行期に出現する認知症に大別される.精神発達遅滞は,行動障害/パーソナリティー障害や学習障害を伴って出現することが多い17).認知症は,行動障害/パーソナリティー障害,感情障害/気分障害,または精神病性障害を合併する皮質および皮質下性認知症で,前頭葉または前頭側頭葉に関連する症状が目立つとされている17).病理学的には神経細胞脱落,反応性アストロサイトの出現やグリオーシス,脂肪を貪食したマクロファージ(泡沫細胞)や多核巨細胞の出現,脱髄,lipid crystal cleftなどの所見が,大脳皮質・白質・基底核,小脳皮質・歯状核,脳幹,脊髄など広範囲に認められ18-22),病変の局在により上述した多彩な神経症状を呈すると考えられる.生化学的には,コレスタノールがラット神経細胞のアポトーシスを誘導することが知られている23).個々の症状の出現頻度は,錐体路徴候が64%~100%,小脳失調が36%~89%,知的障害が48%~70%,精神症状が44%~61%,てんかんが10%~33%,パーキンソニズムが9%~20%と報告されている6,8,9,11,13).末梢神経障害も神経生理学的検査でのみ検出される潜在性の障害も含めると41%~79%と高頻度に認められる8,9,11,13). 軸索障害と脱髄のどちらが主体であるかは症例によって異なり一定しない24-26).詳細な神経生理学的検査を実施したスペインの13例の検討では,8例(62%)に末梢神経障害を認め,4例が脱髄,3例が軸索障害,1が混合性の障害であったと報告されている25).一方,イタリアからの報告では,35名中26名(74.2%)に末梢神経障害を認め,うち76.9%が軸索障害主体であったとされている26).いずれの報告でも運動神経の障害が優位な例が多い25,26).神経生検が実施された3例での報告では軸索障害の所見が全例に認められ,うち1例では著明なonion bulb形成を伴う脱髄所見が合併していた24).神経症状の平均的な出現年齢は,精神発達遅滞/退行が10歳未満,てんかんが10歳代~20歳代,錐体路徴候・小脳失調・精神症状が20~30歳代,パーキンソニズムが30歳代,認知症が30歳代以降と報告されている6,8,11)

<脊髄型>

古典型とは別に,下肢の痙性や感覚障害などの慢性に進行するミエロパチーを主症状とする脊髄型の病型が存在することが,オランダやスペインから報告されている9,27).これらの論文に記載されている脊髄型の症例は,痙性麻痺以外の高度の神経症状,腱黄色腫,下痢を呈する例は比較的少なく,古典型に比べ比較的予後が良好である9,27).画像所見としては,頚髄~胸髄の側索および後索に長軸方向に長いT2強調像高信号病変を呈する症例が多い(後述).
上記の症例に加え,近年,ミエロパチー以外の神経症状を全く欠く,純粋な脊髄型の脳腱黄色腫症が数例報告されている6,28-31).本邦からは2例の症例報告があり,いずれの患者も成人発症で緩徐進行性の痙性対麻痺と脊髄性感覚障害による歩行障害を主訴に神経内科を受診している28,29).これらの報告から,原因不明の痙性対麻痺やミエロパチーとして見逃されている脳腱黄色腫症患者が存在する可能性があり,慢性に進行するミエロパチーの鑑別として本症を考慮すべきである.

<非神経型>

本邦で実施した全国調査で,症状が腱黄色腫,冠動脈疾患,白内障など非神経系のみに限局する非神経型脳腱黄色腫症の存在が明らかになった6).非神経型の患者が将来古典型や脊髄型に移行する可能性は否定できないが,発症から20年以上神経症状を認めない50歳代の症例も複数確認されている6).非神経型の場合,臨床症状とコレスタノール値のみからシトステロール血症と鑑別することは困難であり,診断にはCYP27A1遺伝子変異の確認が必須である.

<新生児胆汁うっ滞型>

脳腱黄色腫症で最も早期に出現しうる臨床症状は,新生児期から乳児期の遷延性黄疸や胆汁うっ滞であり,多くの症例は原因不明のいわゆる新生児肝炎/乳児肝炎などと診断されている.脳腱黄色腫症と診断された患者の後方視的検討10,11)によると,新生児期から乳児期に明らかな遷延性黄疸や胆汁うっ滞所見の記録が残っていたのは11%~15%であったが,記録が残っていなかったり見過ごされていた症例が多いと考えられ,実際の新生児期から乳児期の遷延性胆汁うっ滞の頻度はより高いと予想される.記録が確認された症例の中には2ヶ月~8ヶ月間に及ぶ黄疸の遷延を認める例もあるが,基本的に乳児期に自然軽快している10).しかし,肝不全が進行し生後4ヶ月で死亡した症例32)や,本症罹患者の同胞が13ヶ月齢時に胆汁うっ滞を伴って死亡したという報告10)もみられる.また,本症患者の同胞で胎児期に死亡したものが44家系中4名存在したと報告されている10).乳児期の胆汁うっ滞に関して詳細な経過報告のある症例では,いずれもトランスアミナーゼとアルカリフォスファターゼの上昇は認めたものの,γグルタミルトランスペプチダーゼ(γGTP)は上昇していなかった10,32,33).これは,胆汁うっ滞の原因が胆汁酸合成障害による胆汁分泌障害であるため,胆管の障害が起こりにくくγGTPが上昇しないためと考えられている.従って,新生児期・乳児期の胆汁うっ滞を示す例でこのような逸脱酵素のパターンをとっている場合には,脳腱黄色腫症をより強く疑う必要がある32).乳児期に肝生検を施行した例では,巨細胞の出現とリンパ球浸潤,胆汁うっ滞等を呈する非特異的肝炎の所見であったと報告されている10,32,33).新生児期から乳児期に胆汁うっ滞を呈した脳腱黄色腫症患者の予後に関する前向き研究はなく,これらの症例の何%が将来古典型または脊髄型の脳腱黄色腫症に移行するのかは不明である.